· 

ワクチン効果について(COVID-19)

 COVID-19のワクチンは、インフルエンザのような抗原性タンパク質のみではなく、核酸(mRNAやウイルスベクター)を含む種類となった。臨床試験も十分ではなく、核酸を含むワクチンの大規模な接種は人類で初めてとなるため、現段階では有効性や副作用などのデータがほとんどない。しかし新興感染症の脅威は続いており、今後も似たような状況が想定される。ここでは、ワクチンが十分に行き届いた場合の効果の見込みについてメモする。

 

  ワクチンを接種すると、発症と重症化するリスクを下げる効果がある。日本国内で出生して育っている人は予防接種法に従い、小学校にあがるまでにBCGや4種混合など10種以上のワクチンを接種しており、ワクチンそのものに対しては理解があるであろう。しかし病原体によってワクチンの効果が異なり、さらに個人的な防衛と社会的な防衛(集団免疫)の観点をどう織り交ぜるかによって判断が異なるため、しばしば議論を複雑にしているように思う。

 

 今回のCOVID-19でワクチンが有効に機能したとすると、どの程度になるのであろうか。ワクチンがない時代の感染症パンデミックのスペイン風邪(人類で最初のインフルエンザのパンデミック)と比較し、その見込みを計算してみる(有効性の検証は、数年先になるかもしれない)。

(ワクチンnet)https://www.wakuchin.net/about/universal.html

 

(a)ワクチンと予防接種法

 ワクチン接種は医療行為であるので、リスクがゼロということはなく、その効果がリスクを上回るから行うものであって、本人が判断するべきである。現在の医療技術では(供給が間に合えさえすれば)ワクチンが一番リスクが少なく、効果が長く、コストも低い予防法と考えられる(抗ウイルス薬も有効であるが、使い方次第)。発症時に重症化するリスクと、ワクチン接種によるリスク(数万人に1例のアレルギー反応などの副作用、が一般的)を考え、本人を含めて家族などを守るために接種する。

 乳幼児に加え、免疫機構がうまく働かない人、基礎疾患を持つ人などは、発症すると重症化する可能性が高い(ハイリスクグループ)。これらの人々を守るために、家族などの周囲の人がワクチンを打って感染させる機会を下げる、という発想である。

 (ワクチンnet)https://www.wakuchin.net/about/role.html

 (WHO)https://www.who.int/news-room/feature-stories/detail/how-do-vaccines-work

 

(b)スペイン風邪との比較

 100年前のスペイン風邪の感染者数は、当時の日本の人口の約4割である(1918〜21の3年間)。ワクチンがないと、数年かけて人口の半数近く感染してしまうということであり、今回のCOVID-19の場合も対策を講じなければ、同じ状況になると考えられる。感染者が増えれば、仮に死亡率が低いとしても、犠牲者が増えることになる(インフルエンザの場合、例えば2018/19年シーズンでは1,200万人が感染、2万人が入院し、3,400人の超過死亡が出た)。そこで公衆衛生上の措置として、ワクチン投与により感染者とともに重症者数を減らす対策をとるのが一般的である。実際、WHOはこの方法を推奨しており、各国や地域もその対策に準じている。

 国内のスペイン風邪の死亡率は、感染者の1.6%で38.9万人であった(下表)。COVID-19の場合、ワクチンが供給される2021年3月までの感染者数は44万人、死亡者は8千人であるから死亡率は1.8%であり、スペイン風邪とほぼ同じ割合(1〜2%程度)である。ワクチンなどの対策を講じないと、1.2億人の人口の4割に感染して同じ1.8%で犠牲者が出ると換算すると、86万人の犠牲者が出る計算となる。

 東日本大震災の犠牲者(2万人)や阪神淡路大震災の犠牲者(6千人)と比較すれば、どれほどの規模の災害に匹敵するか想像に難くないが、インフルエンザも毎年数千人の犠牲者がいるのを忘れてはならない。

  スペイン風邪 COVID19(2020〜21年3月まで) COVID19(2021年4月〜) インフルエンザ2018/19
感染者 2,380万人(3年間) 人口の43% 44万人 (2021年3月、ワクチン前) 1,200万人
死亡者 (%) 39万人 (1.6%) 0.79万人 (1.8%) 0.34万人 (0.028%)

(スペイン風邪)「インフルエンザとかぜ症候群(改訂2版)」南山堂(2003)

(2018/2019シーズン、NIID)https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/flu-iasrtpc/9227-477t.html

(東日本大震災)http://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h23/63/special_01.html

(阪神淡路大震災)http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/hanshin_awaji/data/detail/1-1-2.html

 

 (c)死亡者の年代別の違い

 生産年齢であっても、ワクチン接種で副反応が出る可能性が高い人も多いはずである。例えばハイリスクグループの高齢者のみ接種し、これらの人々にあまり接することがない人々は、ワクチンを接種する必要はない、という考えは一理あり、インフルエンザの場合にこの方法をとる国や地域はある。

 ただしCOVID-19では、もともと健康な成人であっても容態が急変して重症化する例が報告されており、原因究明がこれからの現段階では、ハイリスクグループでなくても誰が重症化するかわからない。もしワクチン接種による副反応の懸念がないなら、自分の身を守るためにはワクチン接種した方が好ましいと考えられる。

 

 自分の身近にハイリスクグループに属する人が全くいない、という人はほどんどいないと思われる。加えて社会・経済を動かすため、また社会的防衛をするために、為政者がワクチン投与を推し進めるのは止むを得ないと考える。