「音響浮揚」という現象がある。現象は文字通り、音響を用いて様々な物質を空中に浮かせることができる現象である(左図)。
音源となる振動子と反射板の間に定在波音場を形成させると、その節において物体を浮かせることができる。浮かせる物質の多くは、発泡スチロール(プラスチック)、金属などの固形物が多かった(E.H. Brandt, Nature 2001)。液体も浮揚可能であり、比重の高い水銀の浮揚も報告されている。
この浮揚系、どんなメリットがあるのだろうか。液滴が空中に浮いている状態は、液体が空気にしか触れていない。つまり気-液界面のみの状態である。これは地上では、特異な状態である。
仮にtest tubeに溶液を入れた場合、tubeの材料と接する面(固-液界面)、空気の面(気-液界面)の2種の界面が存在することになる(右図)。その分、溶液系が複雑になる。
例えば、test tubeに溶液を入れた場合、溶質がtubeの材料と接することで変質したり、吸着によって濃度が下がることがある。特にタンパク質などが含まれる生物試料は、タンパク質がtubeに吸着して濃度が下がる(そのためにタンパク質が吸着しにくいtubeが販売されていたりする)。もし溶液が空中に浮いたままであれば、この吸着による濃度の現象は考えなくてよい。
この浮揚現象、宇宙ステーションのような微小重力の場でないと再現できない。地上でこのような状態を容易に作り出すことができれば、様々なアプリケーションが期待できる。