インフルエンザウイルスのヘマグルチニン(HA)が細胞表面のNeu5Ac-Gal構造を認識して細胞に感染するため、GM3結合性ペプチドはウイルスと細胞表面の相互作用を阻害し、その結果感染を抑制することが示唆された(文献3, J. Med. Chem.(2009))。同じくウイルス感染を阻害するために、もう一方の手段である「HAの糖鎖結合ポケットに結合するペプチドでウイルス側をブロックする」ことで、HAとNeu5Ac-Galとの相互作用を阻害することができると考えられる。
本研究では、H1およびH3亜型のHAに対してファージ提示法によるランダムペプチドライブラリーからの親和性選択を行った[4]。同定された15残基のHA結合性ペプチドのうち、両方のHAに結合するペプチドf1を得た。ある15残基の配列を元にサブライブラリーを作成し、さらに選択を行ったところペプチドs2が得られ、HAに対する結合親和性は改善された。3回目の選択も行ったが、2回目と同程度の結合活性を持つ配列が複数(t2〜t9)得られた。
文献3のJ. Med. Chem.(2009)と同様、このペプチドのN末端をアルキル基修飾したC18ペプチドを調製した。このC18ペプチドは脂質を有しているために自己集合する。0.1μM-1 mMの範囲でインフルエンザウイルスとMDCK細胞に対して共投与したところ、s2配列はH1型ウイルスに対してIC50=11μMで感染阻害活性を示した (図5)。ペプチドを短くしたところ、N末端の5残基(s2(1-5); Ala-Arg-Leu-Pro-Arg)があれば十分な阻害活性を示すことがわかった。
ドッキングシミュレーションは、シアル酸と同様に5残基のペプチド(s2(1-5))がHAの受容体結合部位によって認識され、これらのペプチドがシアル酸構造を模倣していることを示唆した(図6)。 このようなHA阻害剤は、新規な抗ウイルス薬の有望な候補であると考えられる。
[4] Teruhiko Matsubara, Ai Onishi, Tomomi Saito, Aki Shimada, Hiroki Inoue, Takao Taki, Kyosuke Nagata, Yoshio Okahata, and Toshinori Sato, Sialic acid-mimic peptides as hemagglutinin inhibitors for anti-influenza therapy, J. Med. Chem., 53(11), 4441–4449 (2010).
(2017年作成)